
目次
フッカーとは?
今回はスクラムのまとめ役『フッカー』について解説していきます。
まずは基本的な情報から押さえていきましょう。
フッカーはどこにいるの?
フッカーのポジションはスクラムの最前列中央、左右のプロップに挟まれる位置になります。
また、ラインアウトではグラウンド外からボールを投げ入れるスロワーになることが多いです。
ちなみに、スロワーはフッカーがしなければならないという決まりがあるわけではありません。
ただ、フッカーには器用な選手が多いことや役割のバランスなどから、慣習的にほとんどのチームでフッカーがスロワー役をこなしています。
フッカーの背番号は「2番」
フッカーの背番号は「2番」です。
FWの背番号はスクラム前列の左から順につけられています。
左プロップが「1番」、右プロップが「3番」で、スクラムで両プロップに挟まれるフッカーは「2番」となるわけですね。
フッキングをする人だから「フッカー」
フッカーという、他のスポーツではあまり聞かない独特のポジション名の由来は、フッカーのプレーから来ています。
フッカーはスクラム中央でスクラムハーフから投げ入れられるボールを足で蹴って味方のナンバーエイトまで届ける役割を担います。
この投げ入れられたボールを蹴って味方に送るプレーを「フッキング」と呼びます。
「フッキングをする人」という意味で、「フッカー」という名前になったんですね。
フッカーの特徴
フッカーの基本的な情報はわかったと思うので、ここからはフッカーの特徴について解説します。
フッカーはパワーと器用さを兼ね備えたファイター
フッカーの体格、向いている性格は?
フッカーは、プロップよりもやや小柄といった印象です。
世界のトップ選手の体格としては、身長175~185cm、体重100~115kg程度が平均。
学生時代などで言うと、一番大きい選手二人がプロップ、その次に大きな選手がフッカーというイメージでしょうか。 ただ、学生時代はトレーニング次第で体の大きさは変わるため、体の大きさよりも器用さや性格的な適性を見て決めた方がいいでしょう。
フッカーに向いている性格は、自己主張をしっかりして統率力のあるタイプです。
フッカーにはスクラムの中心で、左右の両プロップやセカンドロー、サードローの選手をまとめる役割があります。
試合の最中、プレーとプレーの短い間で、しっかりと現状を分析して自身の意見と方針を全員に伝え、チームとしてまとめなくてはなりません。
ナンバーエイトと同じくキャプテンが多いのも、リーダーシップが求められるポジションということも大きいのでしょう。
逆に言うと、自己主張がうまくない性格の人は、フッカー向きではないと言えます。
ただ、慣れてくればプレーに必要なコミュニケーションは取れるようになってきますので、自己主張は苦手だけどフッカーを目指したいという方もご心配なく。
フッカーの役割と必要なスキル
フッカーの役割として大きいのは、セットプレーのキーマンとしての役割です。
スクラムの中心で全体をコントロールしたり、ラインアウトのスロワーとして味方にボールを投げ入れたり。
セットプレーで重要な役割を担うのがフッカーというポジションです。
また、フィールドにおいても、優れた判断力を活かして臨機応変なプレーが求められます。
それぞれの状況別に、フッカーの役割と求められるスキルについて解説していきましょう。
スクラムでの役割とスキル
フッカーにとって最も重要な言えるのがスクラムでの役割です。
投入されたボールを味方に届けるフッキングやスクラムを安定させる強さやまとめ役としてのスキルが求められます。
フッキング
マイボールスクラム時、味方スクラムハーフから投入されたボールをフッキングしてナンバーエイトの元に送ります。
そこからは、ナンバーエイトがそのまま持ち出してサイドアタックを仕掛けたり、スクラムハーフがスタンドオフにパスを出してBKに展開するなどしてゲームが動いていきます。
このフッキングというプレー、実は見た目以上に難しいです。
どこが難しいかと言えば、以下のようなポイントになります。
- フッカーからは投入前のボールはほぼ見えない
- フットアップにならないよう、スクラムハーフとタイミングを合わせる
- 左プロップの足の間を通して後ろにボールを送らなくてはいけない
- ボール投入の瞬間に相手がプッシュをかけてくる
それぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
フッカーからは投入前のボールはほぼ見えない
まず、フッカーはスクラムの中央に位置しています。
スクラムを組んでいるところを思い出してもらえばわかると思いますが、スクラム中は顔が下を向いていますので、視界がかなり狭くなります。
味方ボールが入ってくるところは、味方の1番と相手の3番が組み合っているところでもあり、ボールを見てフッキングのタイミングを合わせるのは難しいです。
この時、ボール投入前に右足を挙げてフッキングの準備をしてしまうと、「フットアップ」という反則で相手ボールのフリーキックになってしまいます。
ですから、フッカーは見えないところから入ってくるボールにぴったりのタイミングでフッキングをしないといけないんですね。
フットアップにならないよう、スクラムハーフとタイミングを合わせる
では、どうやって、見えないボールに対してタイミングを合わせているのか。
答えは、フッカーとスクラムハーフの阿吽の呼吸です。
スクラムを組んで安定した状態になったと判断したら、フッカーはスクラムハーフに合図を送ります。
この合図に合わせてスクラムハーフが一定の間隔でボールを投入し、タイミングを合わせているのです。
やり方はチームによって様々ですが、代表的なものは以下のようなものがあります。
- 準備ができたらフッカーが左プロップと組んでいる左手の指を立てる
- スクラムハーフがその指にボールでタッチして「今からボールを入れる」というサインを送る
- 一定のタイミングでボールを投入し、タイミングを合わせる
合図を送るのだから簡単と思うかもしれません。
しかし、スクラムハーフ側の僅かな投げ入れるモーションのズレでもタイミングがずれたり、投げ入れる位置やボールの回転などでも失敗する可能性もありますので、何度も練習で合わせなくてはなりません。
観戦している時にスムーズにボールが出ている場合は、よく練習されているんだなと思ってもらえると、フッカーの努力も報われるでしょう。
左プロップの足の間を通して後ろにボールを送らなくてはいけない
そして、意外に難しいのが、この左プロップの足の間をきれいに通すということ。
左プロップ側も意識してボールの通り道を開けてはいますが、フッキングが乱れてボールが足に当たることはよくあります。
当たっただけならまだいいのですが、変に弾かれ方をして相手側にボールが渡ってしまう可能性もあります。
スクラムが劣勢の場合、プロップの足元にボールがある間に押されると、一気に相手にボールを奪われてしまう可能性もあります。綺麗に後ろへボールを送るフッキングの技術は、非常に重要なスキルと言えるでしょう。
また、ボールが投入されたところ(味方1番と相手3番の間)から、スクラムの外に出た場合は組み直しとなります。
ボール投入の瞬間に相手がプッシュをかけてくる
フッキングが難しいポイントの大きな要素が、相手チームの存在です。 相手チームだって、隙あらばボールを奪いたいと考えていますから、少しでもミスを誘おうとプッシュをかけてきます。
特に相手チームが狙ってくるのが、フッカーの足が地面から離れるフッキングの瞬間。
わずかですが、踏ん張りが効きづらくなる一瞬の隙を狙ってプッシュを仕掛けてくるんです。
こうした相手からのプレッシャーに負けずに正確にフッキングするには、自軍スクラムの強化も含めた日頃の練習量にかかっています。
スクラムの司令塔としての役割
フッキングも重要なフッカーのスクラムでの仕事ですが、スクラム最前列中央でスクラムの舵取りをすることもまた重要な役割のひとつです。
強いスクラムの第一条件にタイトファイブが一つの塊となっていることが挙げられます。
いくら個々が強くても、それぞれがバラバラに組んでいては、強くまとまったスクラムには勝てません。
フッカーはスクラム中央に位置し、左右のプロップの状況や両ロックの押しが感じられる唯一のポジション。
そのため、どちらかのプロップが負けていたり、一体感がないとすぐに感覚でわかります。
問題がある時には、問題点は何かを考え、どう修正・対応するかを考えなくてはなりません。
また、ラグビーにはハーフタイム以外でゆっくり喋れる時間はありませんので、次回のスクラムを組む前やトライからキックオフまでの間など、短い時間でFW全体と問題点や改善方法を共有しなければなりません。
必要になるスキルとしては、スクラムの司令塔としての状況判断力やコミュニケーション能力、リーダーシップなどが挙げられます。
スクラムのヒットをコントロールする
スクラムはレフリーの「クラウチ」、「バインド」、「セット」という3段階のコールの中で、「セット」のコールに合わせて相手と組み合います。 このヒットのタイミングに遅れてしまうと、相手に有利な姿勢を作られてしまい、盛り返すのが難しくなります。
例えて言うなら、「相撲の立会い」ですね。 相撲の立会いでも、勝てば後の展開が有利に、負ければ不利になりますよね。
スクラムでも同じように立会いが非常に重要なんですが、相撲と違うのは8人同時にタイミングを合わせなけらばならないということ。
先にも言ったように、強いスクラムを組むためには、まとまりが大事。
8人で息のあった立会いをするための、タイミングやまとまりをコントロールするのも、最前列中央に位置するフッカーの重要な役目なんです。
ラインアウトでの役割とスキル
ラインアウトでは、グラウンド外からボールを投げ入れるスロワーという役割を担うことが多いフッカー。 このボールを投げ入れるプレーをスローイングと言いますが、これもなかなか難しいです。
スローイングの難しい点を挙げると以下のようになります。
- 味方の最高点到達に位置とタイミングを合わせて投げる
- 飛ぶ場所に合わせてタイプの違うボールを投げる
- 横のずれは1m以内の幅に抑える
こちらもそれぞれのポイントを詳しく見ていきましょう。
味方の最高点到達に位置とタイミングを合わせて投げる
ラインアウトでは、相手チームもボールを取るためにジャンパーをサポートして、競り合うように飛んできます。
この競り合いに負けないように、味方のジャンパーが最高到達点に達する位置とタイミングに合わせてボールを投げ入れなくてはなりません。
タイミングがずれるとボールがジャンパーの上方を通り抜けてしまったり、最高点より低い位置だと相手に妨害されてボールを取られる危険性があります。
味方とのタイミングを合わせたり、思った場所に投げられるようになるためには、相当な量の練習が必要です。
飛ぶ場所に合わせてタイプの違うボールを投げる
フッカーはラインアウトのジャンパーが飛ぶ位置によって、スローイングのボールを使いわけます。
競り合ってくる相手のジャンパーよりも前で、スピードとタイミングでボールを取るなら、「速く直線的なボール」。
逆に相手ジャンパーより後ろでキャッチするなら、相手ジャンパーを超えるような「山なりのボール」。
この二つのボールの投げ分けが非常に重要で、どちらも味方と連携をとって狙った場所に投げるのは、かなりの難易度と言えます。
横のずれは1m以内の幅に抑える
ラインアウトでは、基本的にボールは真っ直ぐ投げ入れなければなりません。
露骨に味方側に投げられては、相手側が取るチャンスがなくなってしまいますからね。
この真っ直ぐというのが、どれくらいの範囲かと言えば、フッカーの立ち位置を中心に前後50cm、つまり幅1m以内の間です。
ラインアウトで並んだ時に両チームが開ける距離が1mですので、ちょうどその間にスローイングするという形になります。
この幅1mを超えてどちらかにボールが逸れると「ノットストレート」の反則となってしまいます。
1mというと意外に広いと思われるかもしれませんが、相手側に投げ入れたくはありませんので、実際のところ、狙うべきスペースは半分の50cmの間になります。
しかも、ラインアウトの一番手前であれば、キャッチするまで5m程度なのでそれほど難しくありませんが、一番後ろは15mもの距離があります。
15m後ろに50cmもずらさずにボールを投げるというのは、なかなか職人芸。
ラインアウトの後ろの方で何度も綺麗なキャッチが決まるなら、スロワーの技術が素晴らしいと言えるでしょう。
フィールドプレーの役割と求められるスキル
フッカーがフィールドプレーにおいて求められる役割やスキルは多岐に及びます。
近代ラグビーにおいては、タイトファイブ(プロップ、フッカー、ロックのスクラムの前五人)にも、走力やパススキルなどが求められているためです。
特にフッカーはプロップほどのパワーを求められない代わりに、走力や仕事量が重要です。
また、持ち前の器用さで、BKラインに入ってパス回しに参加したり、自分でボールを持って突破を図るなど、2次攻撃以降においてはナンバーエイトのような役割もこなします。
臨機応変さが求められるため状況判断能力も必須で、また、状況を見て味方に指示も出していきます。
まとめ
フッカーについての解説は以上になります。
最後に、フッカーについてまとめていきましょう。
フッカーの基礎知識
- フッカーはパワーと器用さを兼ね備えたファイター
- 世界のトップ選手の平均的な体格は身長175~185cm、体重100~115kg
- スクラムではフッキングをこなすとともに、全体のまとめ役
- ラインアウトではスローイングを行う
- フィールドプレーでも随所で活躍する
- 必要とされるスキルは、パワー、器用さ、状況判断能力、コミュニケーション能力、リーダーシップなど
代表的なフッカーの選手
堀江翔太
日本が世界に誇る名フッカーが堀江翔太。
元々はバックローだったが、社会人(パナソニック)からフッカーに転向。
トップリーグMVPを2度も獲得したり、海外のチームでもプレー経験があり、サンウルブズや日本代表でもキャプテンを務める。
デインコールズ(Dane Coles)
世界ナンバーワンフッカーとの呼び声も高いデインコールズ。
相手をなぎ倒すパワーとスピード、BK顔負けのランニングスキルとハンドリング。
まさに近代ラグビーのフッカーを体現したような存在。